一、クライスラー社向けに供給する車種を拡大するとともに、一九八〇年代末まで継続供給する。二、技術および生産性向上について協力する。三、クライスラー社の経営が健全化すれば三菱側に資本参加も検討するという前向きの支援も取り決めた。つまり、クライスラー社の再建に三菱自工が大々的に手を貸そうというもので、四十五年二月、同社と提携の際の屈辱的な契約からすれば、まさに主客ところを変えた観があった。とくに二項目については、従来の技術契約はクライスラー社からのまったく一方的なもので、三菱側からの技術供与をクライスラー側が拒否したいきさつがあったので、なおさらだった。もっとも、実際にはクライスラー社からの技術供与はほとんど無にひとしく、それまでの同社との提携は内容的にはきわめて空疎なものであったといわざるをえない。社長に就任後間もなくこの朗報に直面した東条は「フリーハンドを握ったことは大きい」と率直にその喜びを語り、五十七年の新年のあいさつでも「多年の懸案であったクライスラー社との関係も正常化された」と述べ、長い間三菱自工の足を引っ張って来たクライスラー社との不自然な関係が終ったことを宣言している。アメリカに限らないが、外国との契約に対する考え方からすると、自分に有利な契約はよほどのことがない限り改訂に応じないのがふつうである。まして当時、小型車開発におくれを取ったクライスラー社にとって、三菱から供与される小型車は頼みの綱であり、アメリカにおける独占販売権の改訂は、クライスラー社にとって積極的に応じるだけのメリットはほとんどない。しかも交渉相手が名にし負うAであってみれば、その交渉が容易でないことは誰の目にも明らかだ。それが、時間がかかったとはいえ実現したのは、Aが経営者としてのK氏に一目置いていたからである。
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